皮肉な時代の大きな皮肉は、1946-47年のインドネシア問題で中国が演じた役割である。
中国は安全保障理事会のメンバー(第1次大戦後の日本と同じように、大国の重要な一員)として、オランダとインドネシアの間の紛争は単なる「地域」問題に過ぎないという立場をとった。
したがって、国際連合は査察する必要はなく、安保理は行動を起こす必要はない、というのだ。
この立場を選んだことで、現在の中国政府(不思議なことに、満州事変当時と同じ政府)は日本の満州政策に対する「法的」優位性を失った。
満州事変とインドネシア事変は驚くほど似ている。
蘭は、日本が中国で行ったことを、インドネシアで行っている。
それは、かつて、中国が非難した行動なのだ。
今日蒋介石の中国が置かれている立場は、日本が最初の教育の時に置かれていた立場と同じである。
米国人はこの類似性について真剣に考えてみる必要がある。
1937年以来、米英両国は蒋介石政権に数十億ドルにのぼる借款と物資を供与してきた。
だから米国人は、中国は米国と同じ陣営であると考える。
しかし、米が考える中国の全体像は、十指に余る法的擬制からできたものなのだ。
第一に、国民或は国家を代弁する権威ある政府を持った共和国、または国としての「中国」まだ存在していない。
戦争中に存在したのは三つの政権だった。
即ち、重慶の蒋介石、南京の汪精衛、そして延安の所謂共産党である。
蒋介石は英米に協力し、両国の支援で日本と戦った。
汪精衛は日本に協力し、日本の支援で英米と戦った。
共産党はソ連の支援を受けながら、蒋介石と戦った時期もあるが、結局共同で日本と戦った。
しかしその一方でソ連は、蒋介石を支援していた時期もある。
現在、この国では蒋介石政権と共産党の内戦が再燃している。
米は蒋介石を、ソ連は共産党を、双方が中国の平和と幸福を破壊しているのだ。
内戦は高度なパワー・ポリテックスのゲームになっているのだ。
中国との関係は、今後益々、米国を悩まさずにはおかないだろう。
米国は中国を「われわれの陣営」であり、蒋介石を友好国中国の代表と考える癖がついてしまったが、これは錯覚である。
蒋介石が書いた『中国の運命』の完全版を丹念に読むと、あまりにも米英に依存せざるをえない現在の立場を慨嘆していることが解る。
本の中で彼は、日本の帝国主義だけでなく、西洋の「帝国主義」全般に対する怒りの気持ちを表し、近代に入って中国が混乱した原因は不平等条約下での西洋列強の行動にあったと非難している。
この本を読むと、蒋介石が米英の援助を受けているのは、これによって強力な政権を樹立し、名実ともに外国の支配から抜け出すことが狙いであることが解る。
しかし、それまでの間、蒋介石が米国に頼らざるを得ない部分はきわめて大きい。
蒋介石が米国の傀儡とみられてもしかたがないのだが、これは、米国民には戦慄すべきことである。
それが怖いなら、米国民はそう思われないように行動するしかない。
実際には、近代中国の政権はいずれも傀儡だった。
そして皮肉なことに、中国から見れば、日本の「傀儡」政権のほうが、米国のものよりはましだった。
米国は日本が汪精衛に貸した金額より圧倒的に多額の借款を蒋介石に与えたことは事実である。
しかし、日本は上海を含む中国の日本「解放」区にあった外国資産を、気前よく汪政権に引き渡している。
これに対して、日本敗戦後、蒋介石が最初にやったことは、その資産の一部を英米の元の所有者に返還することだった。
P361-364
『アメリカの鏡・日本』ヘレン・ミアーズ著(1948年)
戦後、インドネシアでオランダが行ったことは、日本が満州で行った満州事変と似ていたのたが、支那は国連が査察する必要はないとした。
支那には、戦前も戦中も多くの政権があったが、支那人にとって最も良かったのは親日政権であり、米英の傀儡だった蒋介石政権は悲惨な目に遭わされていた。
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