【ハロランの眼 太平洋の真中で】核開発費3.3兆円の妥当性
2006/11/30, 産経新聞
■潜水艦配備の英国型参照
安倍晋三首相は日本の核兵器保有の可能性を否定したが、核をめぐる日本国内の論議は絶えることなく続いているようである。
(中略)
(日本の核アレルギー、憲法9条、非核3原則、NPTなどの国際的責務…等、くだらない事)
以上の点はさておき、核兵器の軍事的な側面だけをみれば、国内の使用電力の3分の1を原子力でまかなっている実績からして、日本には確かに核弾頭を生産する技術力がある。数年前、ある日本人の戦略研究家は「日本はNマイナス6カ月だ」と言った。決断がなされれば、わずか6カ月で核装置をつくることができるという意味だ。
しかしながら、それはほんの始まりにすぎない。効力ある核抑止力を発揮するには、核弾頭が攻撃目標に命中する手段の開発に投資する必要がある。核兵器の運用および維持、加えて核兵器要員の訓練と人員保持にはさらに費用がかさむ。
核搭載爆撃機、あるいは地上配備の(核)ミサイルの建造は無駄であろう。敵の不意打ちの第一撃によって、数分の間に破壊されてしまうからだ。日本は狭い島国であり、米国や中国、ロシアのように爆撃機やミサイルを全土に展開し、移動させる広大な大陸空間がない。
日本に適している唯一の(核)兵器といえば、日本から遠い海域にある潜水艦から発射されるミサイルだろう。敵のソナーに捕捉されず、短時間で発射可能だ。もう一つの島国である英国はずっと以前にこの結論に達し、日本人が参考にできるかもしれない(核)抑止力を展開してきた。
今月発表された英国の報告書は、英国が最初に核兵器を獲得した時、英空軍は「広大な陸上の基地が必要なうえ最も想定される敵、つまりソ連による第一撃を受ける危険にさらされているとみられていた。それに反して、新しい(核兵器搭載の)潜水艦艦隊は動きが自由であり、ソ連軍に追尾されにくいことに気づいた」と述べている。
だから、今日の英国の核戦力は、それぞれ3つの弾頭が装備可能な16発のミサイルを搭載したバンガード級原潜4隻から成っている。英国は原潜と弾頭を独自開発したが、米国から、装備する弾頭の数によって6500キロから1万2000キロの射程範囲をもつトライデントD5ミサイルを調達している。
「英国の核抑止力の将来」と題された前述の英議会への報告書によれば、核兵器搭載の爆撃機に代えて原潜だけに頼るという1980年の英政府の決断以来、トライデント・ミサイル購入完了までに14年を要し、トライデント搭載の最初のバンガード級原潜が就役したのは94年12月のことであった。4番目の原潜の就役は2001年。この核戦力は24年まで運用できると期待される。
英国がこの核戦力につぎ込んだ総経費は06年の貨幣価値で149億ポンド(3兆3160億円)と見積もられる。これに加え、06年の運用費は年間約20億ポンド(4450億円)、それは07年には21億ポンドに上昇する見込みである。
冷戦時代、英国はソ連から核攻撃を受けた場合の報復攻撃に備えた2隻の潜水艦の常時海上配備の計画を立てていた。冷戦の終結によって、常時1隻だけが海上パトロールを行い、もう1隻はいつでも出航できる状態になっている。他の2隻は訓練、または補修中だ。
この最低限の核戦力を保持しつつ、英国は全体的な核の傘を米国に委ねている。ユーラシア大陸の外側にある地理的、戦略的な位置が英国に似ている日本も、あるいは同様の方策をとりたいと思うかもしれない。
注 日本の防衛関連予算は4兆7906億円(06年度)
【プロフィル】リチャード・ハロラン
ジャーナリスト。1930年、米ワシントンDC生まれ。60~70年代にワシントン・ポスト紙やニューヨーク・タイムズ紙の東京支局長を歴任。98年、勲四等瑞宝章を受章。著書に「アジア目撃」(産経新聞に連載)など。ハワイに在住し執筆活動中。
3年以上前に、Yahoo!掲示板で試算されていた金額は、概ね妥当だったようです。
http://blogs.yahoo.co.jp/deliciousicecoffee/3949389.html
追加(2007年1月6日)
英の核戦力検証・狭い国土SLBMに特化・イギリスで更新期迎え論戦へ・費用は4兆円超
http://blogs.yahoo.co.jp/deliciousicecoffee/10895730.html
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