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「本紛争は一国の国境が隣接国の武装軍隊に依り侵略せらるるが如き簡単なる事件にもあらず」「支那は日本の協力が必要」『リットン報告書』....第9章 解決の原則及条件

第9章 解決の原則及条件

 今や吾人は将来に注意を集中する時期に達したるを以て本章の考察を最後とし此上過去には言及せざるべし。前掲各章の読者にとりては本件紛争に包含せらるる諸問題は往々称せらるるが如く簡単なるものに非ること正に明らかなるべし。即ち問題は寧ろ極度に複雑なるを以て一再の事実及其の歴史的背景に関し十分なる知識あるもののみ之に関する決定的意見を表明する資格ありというべし。本紛争は一国が国際聯盟規約の提供する調停の機会を予め十分に利用し尽くすことなくして他の一国に宣戦を布告せるが如き事件にあらず。又一国の国境が隣接国の武装軍隊に依り侵略せらるるが如き簡単なる事件にもあらず。何となれば満州に於ては世界の他の部分に於いて正確なる類例の存せざる幾多の特殊事態あるを以てなり。

(中略)

 日本は右事実完了に至らしめたる手段はこの種行動の防止を目的とする国際聯盟規約、不戦条約及華府(ワシントン)九国条約の義務に合致するものなりと主張す。更に本問題に付初めて聯盟の注意が喚起せられたる際漸く開始せられたる行動は其の後数ヶ月間に完結せられ且日本は右行動を以て9月30日及12月10日寿府(ジュネーブ)に於いて其の代表の與えたる保証と合致するものなりと主張す。日本の説明に依れば其一切の軍事行動は正当なる自衛行為にして右権利は叙上の多那的条約中に包含せられ又国際聯盟理事会の何れの決議に於いても奪われたることなし。将又東参照に於いて支那の旧政権に代われる新政権は其の成立が地方人民の行為にして彼等は自発的に其の独立を宣言し支那との一切の関係を断ち自己の政府を樹立したものなるを以て正当視せらるるものなりとせり。尚日本の主張に依れば斯くの如き真正なる独立運動は如何なる国際条約若しくは国際聯盟理事会の決議に依りても禁ぜられず、且斯かる運動の既に行われたりと云う事実は
九国条約の適用を著しく改編し聯盟に依り調査せられつつある問題の全性質を根本的に変更せるものなりとせり。

(中略)

 前章に記述せる程度以上に日本の満州に対する経済的依拠を誇張することなく且経済的関係は日本に対し東三省の政治的は勿論経済的発達を支配するの資格を与うるものなりと提言することなく、日本の経済的開発の為満州が甚だ重大なる事を認むるものなり。将又日本が満州の経済的開発の為必要なる治安を維持し得べき安定せる政府の樹立を要求することも不合理なりと考えるものに非ず。然るに斯くの如き状態は人民の願望に合致し且彼等の感情及要望を十分に考慮する政権に依り初めて確実且有効に保障せらるべし。尚右満州の急速なる経済的開発に必要なる資本の集中は現在極東に見られざる外部の信頼と内部の平和の雰囲気とに於て初めて可能なり。

(中略)

 日本にとり重大利益ある右日支の経済的提携は同時に支那の利益問題なり。何となれば支那が更に日本と経済的及技術的に合作することは其の国家改造の第1事業を助成するものなるを発見すべければなり。支那は其の国民主義の狭量なる傾向を抑圧することに依り又友誼関係復活するや否や組織的ボイコットの再現することなき旨の有効なる保障を与えることに依り右提携を助成し得べし。一方日本としては満州問題を支那関係の一般的問題より切り離し、支那との友好及合作を不可能ならしむる方法にて支那問題を解決するが如きあらゆる試みを放棄することに依り右提携を容易ならしむるを得べし。

(中略)

 支那に於いても亦該国家に対する死活問題、真の国家的問題は国家の改造及近代化なることを認むるに至れる処彼らは右改造の近代化の政策は既に開始せられ政綱の望多きも其の実現には一切の国家特に其の最も近隣者なる大国との友好的関係の涵養を必要とすることを認めざるを得ざるなり。支那は政治的及経済的事項に於いて一切の主要国の協力を必要とする特に支那にとり有益なるは日本政府の友好的態度及満州に於ける日本の経済的協力なり。新に目覚めたる国家主義の他の一切の要求は如何に正当にして且緊急なりとも右国家の有効なる内部改造に対する重大なる必要の前には之を従とせざるべからず。

『リットン報告書』

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